現役飼育員に取材協力をいただき、現場で働く人の内側に秘めた想いを赤裸々にお届けする本企画。
今回は番外編として、和歌山県にあるテーマパーク、アドベンチャーワールドの動物病院課で勤務する小西さんにインタビューさせていただきました。
動物園で働く動物病院スタッフとは一体どのようなお仕事なのでしょうか。
小西優以さん
もっと一緒に暮らしたい、そんな想いから命を救える仕事へ
ーー動物看護師を目指したきっかけを教えてください。
小さい頃からハムスターやウサギなどの寿命の短い生き物と暮らして、病気等で動物病院にお世話になる機会が多くあり、動物の命を救える仕事に興味を持ちました。
他の生き物と比べると一緒に過ごせる時間が限られている動物だったので、必然的に命について考えることがありました。
そのため動物の命を救える仕事ができるよう獣医を目指していたため、中学の進路選択の時には理系の高校へ入学することを選択しました。
高校卒業後も獣医学を学べる大学を探しましたが獣医学科は地方に多かったため、大学に入学して何を学びたいかを絞って神奈川県麻布大学動物応用科学科へ入学しました。
ーー大学で印象的に残っている授業はありますか?
解剖の授業が印象に残っています。5〜6人のグループに分かれ解剖を行います。動物が好きな分、目を伏せたくなるような瞬間もたくさんありましたが、命と向き合うことを学びました。
命との向き合い方と次へつなげる努力
ーー動物園での一日のお仕事の流れを教えてください。
獣医師だけができる仕事(麻酔銃、手術、診断)以外の業務(検査、治療)を行っています。
病院に予約して行くようなイメージで、時間ごとにその日治療や検査をする動物が決まっているので、獣医師や飼育員と一緒に行います。
ーー仕事のやりがいを教えてください。
健康でいてくれることが一番ですが、治療している子が元気になってくれた時はうれしいですし、やりがいを感じます。
治療や診察は難しいですし、動物たちに嫌われてしまうこともあるのですが、話しかけたり触れてみたりと日頃からコミュニケーションをとることを意識しています。
ーー一方でどんな時に大変だと感じますか?
さまざまな事情で母親からミルクを飲むことができない個体を人工哺育した時は大変でした。基礎としてイヌやネコ、家畜を主に勉強していましたので、動物園の動物は前例がないことがたくさんあります。もちろん、これまで治療してきた動物たちの記録はありますが、わかっていないことも多いので勉強が必要です。
また、アドベンチャーワールドにいるすべての動物を診ているので死に直面することもあります。はじめは落ち込むことも多かったのですが、飼育担当者が一番悲しいと感じているはずですし、他に診察や治療が必要な動物はいますので、気持ちを助長させないよう頭を切り替えることを意識しました。
ーー動物が好きな分、気持ちを切り替えるのは難しいですよね。
もちろん今でも悲しい気持ちはありますが、「(病気や怪我から解放され)楽になってよかった、よく頑張ったね」と思うようにしています。
そして亡くなった個体はすべて解剖し、ひとつひとつの命に向き合うことで、今生きている動物たちの健康維持と治療などに役立てるようにしています。
法改正により動物看護師が国家資格に
ーー個人的な目標を教えてください。
「愛玩動物看護師法」が国家資格になったので、動物看護師を名乗れるように受験しようと思っています。(※1)
正しい知識を持って動物に接することが大切ですし、資格として残したいとも思っています。
また動物の病気や怪我は未然に防ぐことが大切だと思っています。
なので、担当の飼育員が気がついていないようなことを第三者の目線でアドバイスをして一緒に動物たちの健康を維持していきたいとも考えています。
(※1)令和4年5月1日に愛玩動物看護師法が施行され、愛玩動物看護師・動物看護師として活躍するためには、「愛玩動物看護師」の国家資格の取得が必須となっています。
心の切り替えと観察眼を養って
ーーこれから飼育員を目指す方にメッセージをお願いします。
命と向き合う現場なので、目の前で亡くなってしまう命と直面することはどうしてもあります。けれど、その悲しい瞬間を少しでも減らすことはできると思うので、自分の感情にいっぱいいっぱいにならず、うまく気持ちを切り替えて救える命に目を向ける強さを少しずつ鍛えられたら良いなと思います。
また動物とは共通言語がないので、観察眼を養っていくことも大切だと思います。
正解は分からないけれど、日々観察して相手(動物)が何を欲しているのかを考えることは今からでもできますので、試してみてくださいね。
ーー小西さん、ありがとうございました。
動物たちの命に対する考え方や心の保ち方についてうかがいました。動物の死に直面した時さえも、飼育員の気持ちや他の動物たちに目を向ける強さと優しさに溢れた方でした。
今、動物看護師を目指している方々にも良い刺激になる内容だったのではないかと思います。
WRITER PROFILE
Matsuda Natsuki まつだ なつき
ドルフィントレーナー専門学校を卒業後、ダイビングインストラクターや船舶の仕事に関わる。全国の水族館や動物園だけでなく、野生の生き物に会いに行くのも趣味。「地球に生まれた全ての生き物が、HAPPYで愛あふれる未来に生きたい」と願い文字を綴る。