2022年08月22日

親が子を育てるのはなぜ?

猫の親子

子猫の毛づくろいをする母猫や、口をいっぱいに開けたヒナにえさを運ぶ親鳥など、私たちの回りには、子どもの世話をする生き物のほほえましい姿が見られます。また私たち人間も、子育てをする生き物です。

鳥の親子

一方、地球上には子育てをしない生き物もたくさんいます。魚のサケも、昆虫のカブトムシも卵は産みっぱなしで子どもの世話はしません。

では、なぜ多くの哺乳類や鳥類、一部の魚や虫は子育てをするのでしょうか。

卵を守るタガメの雄(引用元「WWF JAPAN」https://www.wwf.or.jp/staffblog/campaign/4155.html)

そこで本記事では親による子供の世話行動について、オランダの動物学者ニコ・ティンバーゲンが提唱する4つのアプローチから解説します。動物学の祖といわれるニコ・ティンバーゲンは、生物のある習性や機能を理解するためには、4つの疑問を解明しなければならないと考えました。

すなわち、

①その習性・機能のメカニズムはどのようなものか

②その習性・機能はなんのためにあるのか

③その習性・機能は個体の発達段階でいつ完成するのか

④その習性・機能はどのような進化過程で獲得されたのか

という4つの問いです。これを「ティンバーゲンの4つのなぜ(問い)」と呼びます。

「ディンバーゲン4つのなぜ」

①子育てのメカニズム(至近要因)

親の子育て行動を直接引き起こすものは何でしょうか。これには、繁殖をつかさどるホルモンが重要な働きをしています。

繁殖のサイクルとは、配偶の相手を見つけて配偶し、子どもが生まれると育てて、子育てが終わると次の繁殖に移るというもの。このサイクルは、ホルモンにより調節されています。とくに鳥類や哺乳類では、エストロゲン、プロゲステン、プロラクチン、オキシトシンなどのホルモンが子育て行動を引き起こす至近要因と考えられていますが、ではホルモンさえ働けば親が子育てをするかというと、そう単純ではありません。

出産直後のラットに2、3時間赤ちゃんと接触させたあと記憶を消す薬を飲ませると、世話をしなくなるという実験結果があります。このことから、世話行動には出産直後の記憶も重要であると考えられます。また、赤ちゃんの匂いや動きなど、赤ちゃんからの働きかけも母親が世話行動を続けていくために大切な役割をしているようです。

ラット(引用元「Wikipedia」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88)

一方、ホルモンが働いていないと子育てをしないというわけでもありません。子どもを産んだことのない雌のラットに毎日1、2時間赤ちゃんラットを見せ続けると、5、6日で世話行動をするようになります。これは雌に限らず、雄でも時間はかかりますが世話行動をすることが実験で分かっています。

鳥類では、プロラクチンの働きにより、巣作りや卵の上に座って温める世話行動が起こります。鳥が抱卵を始めると、卵を抱く部分のお腹の羽毛が抜け落ちて「抱卵斑」ができます。抱卵斑の皮膚の部分には血管がたくさん分布していて体温が高いため、効率よく卵を温めることができるのです。この抱卵斑もエストロゲンやプロゲステロン、プロラクチンの働きで形成されます。

セキセイインコの抱卵斑(引用元「横浜小鳥の病院ブログ」http://avianmedicine.blog71.fc2.com/blog-entry-2533.html)

このように、鳥類でも子育て行動にはホルモンが深くかかわっていますが、ホルモン以外にも視覚的・触覚的な刺激が必要であると考えられています。

②子育ての目的(究極要因)

子育ての目的は、子の生存率を上げることです。生き物が子孫を残すための戦略は、大きく分けて2つあります。ひとつは、何百万個もの卵を産むことで、世話をしなくてもそのうちの何匹かが生き残ることに賭ける方法。運任せですが、少なくとも2匹生き残れば親と同じ数なので、その種類が途絶えることはありません。もうひとつが、子どもの数はそれほど多く産まずに世話をする方法です。

子育てが行われるのは、運に任せていたのでは子の生存が危ういような場合です。つまり、捕食圧が高かったり、えさを得にくいような状況では、子育ての戦略がとられるようになったと考えられます。実際、カエルの仲間の約70%は子育てをしますが、これらは地上に産卵する種類です。卵を捕食者から守ったり、乾燥させないように世話が必要なのでしょう。反対に、水中に卵を産む種類は子どもの世話をしません。

オタマジャクシを背中に乗せて運ぶモウドクフキヤガエル(引用元「ナショナルジオグラフィック」https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/031500097/)

ところで、子育てする生き物には、雄雌両方が子育てをするものや、どちらか片方が子育てをするものがいます。雄と雌のどちらが子育てをするのかを決める要因とは何でしょうか。

これについては「ゲーム理論」を用いた研究があります。ゲーム理論とは、将棋やチェスのように、相手の出方によって自分の行動が変化するような状況を分析する数学的手法です。子育てにおいては、

・両親が世話をする場合、片親が世話をする場合、どちらも世話をしない場合の子の生存率

・雌が世話をする場合、しない場合の卵の数(一般に世話をしない場合のほうが多い)

・雄が世話をしない場合に次の配偶者とつがう確率

をそれぞれ考えて、一番子の生存率が上がるような世話の仕方が取られるはずだと予測されます。

もっともこれは理論上の話で、実際はそう簡単ではありません。実際の生き物たちの世話行動を説明するには、さらに複雑なモデルが必要でしょう。

③親による世話行動の発達(発達要因)

複数回繁殖する生き物では、親の子育てはどのように発達するのでしょうか。

基本的な世話行動については、遺伝子に組み込まれており、ホルモンによって制御されています。もし世話行動が後天的に学習して身につけるものだとすると、一番最初に生まれた子どもの生存率は低くなってしまうからです。

しかし、子育ての経験を積むことで、子育てが上達するのもまた確かです。実際、猿などの動物で、初産の母親は失敗も多いことが観察されています。

猿の親子

④世話行動の進化(系統進化要因)

では、親による子の世話行動は、進化の過程でどのように獲得されたのでしょうか。

世話行動にはさまざまなものがありますが、たとえば卵の世話をする行動は、親がその場にとどまることから進化したと考えられます。子育てをする魚の多くは、雄が卵の世話をします。これは雌が雄のなわばりに来て配偶、産卵するので、卵のそばにとどまる雄が世話をするようになったのでしょう。

口の中で卵を守るファインスポッテッドジョーフィッシュの雄(引用元「東京ズーネット」https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=kasai&link_num=21550)

また、哺乳類の授乳はプロラクチンというホルモンの働きに制御されています。一方、鳥類のハトは、胃の中で「ハトミルク」と呼ばれる栄養物質を分泌して子どもに与えますが、このハトミルクもプロラクチンの働きによるものです。さらには、ディスカスという種類の魚は体の表面に分泌される粘液で小魚を育てますが、これもプロラクチンが制御しています。

プロラクチンは脊椎動物の進化を通して保存されてきた単純なホルモン。これが少しずつ働きを変えることで、いろいろな種類の生き物で授乳に似た世話行動が進化したと考えられます。

まとめ

私たちヒトも子育てをする動物であり、ほかの動物と同じく妊娠や出産、授乳にはホルモンの働きが関わっていますが、ホルモンと世話行動の関係はよくわかっていません。人間の子育ては文化や社会、時代によってさまざまだからです。また、人間の子育て行動は、社会環境や人間関係にも大きな影響を受けるので、子育てしやすい環境も至近要因の一つと言えるでしょう。

WRITER PROFILE

岡田 千夏 おかだ ちなつ

ねこ好きライターです。理系分野が得意。ねこのイラストや漫画も描きます。京都で4にゃんと暮らしています。