現役飼育員に取材協力をいただき、現場で働く人の内側に秘めた想いを赤裸々にお届けする本企画。
今回も和歌山県にあるテーマパーク、アドベンチャーワールドのサファリ課で草食動物の飼育を担当されている杉山さんにインタビューいたしました。
また杉山さんは株式会社アワーズの実績と飼育・繁殖研究を学べる場所として開校したAWS(アワーズ)動物学院(以下、AWS動物学院)の卒業生。
そこで本記事では、現在の杉山さんのお仕事内容に加え、AWS動物学院についても深掘りしていきたいと思います。
杉山敬祐さん
目次
目指すのではなく、アドベンチャーワールドに入ると決めた中学3年
ーー飼育員を目指したきっかけを教えてください。
小さい頃から実家にはネコとウサギ、祖父の家にはイヌがいたので動物が身近にいる生活でしたが、その頃は動物に関わる職業に就きたいとは考えていませんでした。
料理を作ることが好きだったので料理人になろうかなと思ったこともあります。
中学三年生の時、家族との卒業旅行ではじめてアドベンチャーワールドに連れてきてもらい、その時に見たイルカショー(マリンライブ)に衝撃を受け、ドルフィントレーナーとしてアドベンチャーワールドに入社することを瞬時に決断しました。
当時の自分の心境として、「憧れ」とか「目指す」とかそういったものではなく、「アドベンチャーワールドに入社する」ことが決定事項になっていました。
ーーでは、どのようにしてAWS動物学院に入学されたのでしょうか?
高校を卒業後もアドベンチャーワールドに入社することは僕の中で決まっていたので、どこの大学に行きたいとかそういう気持ちはありませんでした。
ただはじめは、AWS動物学院の存在を知らなかったので、動物の飼育について学べるであろう専門学校を重点的にオープンキャンパスに参加していました。
いいなと思うところはたくさんありましたが、入学したいとまでは思わず迷っていたところ、親戚からAWS動物学院のことを聞き、すぐにオープンキャンパスに参加し、その帰りにここに入学したいと両親に話しました。
両親は僕がアドベンチャーワールドに入社することを応援してくれていたので、すぐにAWS動物学院の受験をしました。
コミュニケーション能力と充実した研修制度
ーーAWS動物学院を卒業されて現在に活かされていることはありますか?
今でもぼくが役に立っているなと思うのが、話し方や視線、表情などを気にしながら人前で自分の考えを発表する機会がすごく多かったことです。
それまで人前で話すことが好きでもなければ得意なわけでもなかったのですが、飼育員は動物の管理だけでなく来園者の前で話す場面がたくさんあります。
今でも人前で話すことは好きな方ではないのですが、僕の話し方を褒めていただくこともあるので、学生時代の経験が活きていると思います。
ーーAWS動物学院と他の学校との違いを感じることはありますか?
大学と比較すると学力の面では多少劣るかもしれませんが、実習のレベルに関してはとても充実していたと思います。
もちろん他の専門学校でも実際に動物を飼育していたり動物園に実習に行く機会は設けられていたりするとは思うのですが、AWS動物学院ではアドベンチャーワールドをキャンパスフィールドとしていますので、学校では飼育できない動物と関わりながら動物園という環境で毎日実習できます。
なかには実習対象ではない動物もいますが、自分が学習したい動物を決めて観察やトレーニングを行えるのはAWS動物学院の強みだと思います。
杉山さんの1日
ーー杉山さんの1日の仕事の流れを教えてください。
シフト制ですので、担当する動物によって業務内容が変わります。
キリンのシフトの場合ですと、午前中は寝室の掃除や展示場の掃除、給餌、動物の解放、運動場の開放をします。
キリンのシフトであってもシロオリックスや、エランドの動物がいますので、あわせて対応しています。
お昼休憩後はツアー対応や実習生のトレーニング対応、また僕の場合は翌日の餌の用意まで行います。
キリンの場合はそのままの木をあげるので、園内に生えている木を自分たちで切ってきたり、ツアーで使う葉っぱの準備をしたりしています。
その他にも、AWS動物学院の学生の実習を任せていただいているので、その時間は一緒にトレーニングをしています。
何ごともなければ、1時間ほど自由に使える時間ができるので、その時は動物のトレーニングや事務作業、清掃のどれかにあてています。
ケニア号の最終便が通った後は、キリン収容の合図となるので動物たちを戻していく作業にうつります。
その後は日によって違いますが、動物の同居練習、治療・繁殖などの来園者がいなくなってからしかできないトレーニングが必要なときは、暗くなってからでは危険なので空が明るいうちに行いますし、オフィスに上がってきて事務作業をするときもあります。
ーーキリンの餌はどのようなものを準備するのでしょうか?
基本的に干し草、ヘイキューブ、濃厚飼料(ペレット状の餌)、一部添加物を与えています。
その他にも500円玉くらいの太さの木を切ってきて1頭につき1本与えています。
葉っぱや木の皮だけを食べるので、真の部分だけがいつもきれいに残っています。
ーーどのような事務作業があるのでしょうか?
飼育リーダーを任されているので、共有事項やみんなの意見をまとめたり、発注作業をしたりしています。
最近ですとアドベンチャーワールドがナイトサファリのイベントを実施していたので、ツアーについての企画やデータ集計をしていました。
時期にもよりますが、イベントが重なると事務作業も忙しくなります。
今ではなく将来役に立つ指導を
ーー学生たちの実習はどのように行っているのでしょうか?
AWS動物学院では、2年生になると選考したい動物と目標を決めます。
たとえば、「キリンの採血トレーニングを一年かけてできるようになりたい」と決めたら、そのトレーニングの仕方を学生たちが考えてきてくれるので、実際にやりながら学習していくようなイメージです。
トレーニングの方法は学生たちが考えてきてくれるので、上手くできない時はアドバイスすることもありますが、基本的には学生たちの研究なので僕の場合は危険でなければ一回やってみてキリンがどう動くのか見てみようといったスタンスで行っています。
トレーニングの内容としては、採血トレーニングができるキリンに対して、採血を安定させる目的で行うこともありますし、採血トレーニングを全く受けていないキリンに対してできるようにするためのトレーニングをしたりすることもあります。
以前、エランドの削蹄(ひづめを削るトレーニング)を頑張ってくれた学生がいて、1年かけてできるようになりました。
僕らがやっていなかったことも学生が興味を持ってトレーニングをしてくれてできるようになったりするので、とても助かっています。
また研究の内容によっては1日観察するときもあります。
僕たち飼育員も動物の観察は行っていますが、1日中その動物だけを見ているわけにもいかないので、学生たちがいつもと違うことを疑問に思ってくれることで気がつくこともあります。
ーー学生の研究に携わるうえで気をつけていることはありますか?
安全な範囲でしたら失敗しても良いと思っているので、基本的に一回挑戦してみて動物の反応を覚えて欲しいです。
動物に伝わらず結果が出ない時はしんどいとは思うのですが、卒業してから動物の飼育員としてトレーニングに携わるときに引き出しが多い方が役に立つと思うので、今ではなく将来役立つような指導を心がけています。
命が生まれる瞬間に立ち会える反面、命が終わる瞬間にも直面する
ーー杉山さんの飼育員としてのやりがいを教えてください。
僕は動物のトレーニングが好きです。
コツコツやらなければいけないのですが、目に見えた成果を動物が示してくれると嬉しいですし、少しのことでも達成感につながります。
また自分が担当していなくても命の誕生に立ち会えるのは飼育員の特権だと思います。
生まれたらSNSで公表はするんですけど、その瞬間に携われるのはうれしいです。
ーー一方でどんなことが大変だと感じますか?
命の誕生にたくさん出会える反面、命が終わる瞬間にも直面します。
去年、鳥インフルエンザが発症して、どうしても鳥たちを安楽殺しなければいけない状況になった時は、なかなか立ち直れないほど辛かったです。
ーーどのように乗り越えていくのでしょうか?
動物の死に対して自分の中で乗り越えているのかわからないです。
ただ動物が亡くなっても自分の担当する動物はいますし、草食動物のチームリーダーであることは変わらないので、何も手付かずの自分に期限を決めて、その日を過ぎたら切り替えようと奮い立たせていましたね。
サファリワールドのアップデートを現実化したい
ーー飼育員としての夢を教えてください。
学生の時はイルカを専攻していたのですが、ご縁があってずっと草食動物の飼育に携わらせていただいているので、この先もずっと草食動物の飼育員でいたいと思っています。
そのなかで、まだ担当したことのない動物もいるので、パーク内サファリワールドの草食動物はすべて経験してみたいです。
ほかにも、サファリ課全体で将来のビジョンを考えていて、サファリワールドをどのようにアップデートしていけば来園者により楽しんでいただけるのかなどを考えています。
コロナウイルスやチームメンバーの異動などがあり、うまく進んでいなかったので、もう一度案を出し合って
現在進行形で決めているので、僕がチームリーダーの時に固めて現実化していきたいです。
ーー杉山さんが思うアドベンチャーワールドの見どころを教えてください。
動物との距離感は日本でもトップクラスではないかと思います。
安全性や動物のことを考えたら仕方ないとは思うのですが、アドベンチャーワールドではガラス越しではなく、サファリ形式を採用し、堀を隔てて動物と人間との距離を保っています。
ガラスがない分、匂いや音などを感じることができます。
一般の方からしたら動物園って匂いがきついことがあると思うのですが、それは匂えているからこその感想なので大事だと思いますし、動物によっても匂いが全然違うので、直接感じていただきたいです。
動物をより近くで感じられるツアーもたくさん用意していますので、ぜひ体験してみてください。
目の前に動物がいるのは自分が頑張った証
ーー飼育員を目指す方へのメッセージをお願いします。
飼育員を目指す方へ大事にして欲しいことがあります。
それは『自分の考えは持って欲しい、けれど自分の考えが100%正解だとは思わないで欲しい』ということです。
どういうことかと言いますと、トレーニングに関わる話ではあるのですが、動物たちは同じ種類であってもそれぞれに個性がありますので、1回成功したトレーニングが違う個体に対して有効かどうかはわかりません。
過去に成功したトレーニングに自信を持つことはとても大事だけど、そのやり方が他の個体に対して正解とは限らないので、そこで試行錯誤してアップデートしていけるようになってほしいです。
飼育員は経験も大事になってきますが、そこばかりを重要視してしまうとアップデートができなくなるので、いろんな人の意見を取り入れて自分の中の引き出しを増やしていけるような、自分の考えを持ちながらも柔軟に聞き入れられるような頭をもっておくと、どんどん成長していけるのではないかと思います。
飼育員になろうと思ってくれている人は少なからず動物が好きだと思うのですが、その気持ちはずっと忘れないで欲しいですね。
動物園にいる動物たちはペットではないので、その動物たちに対しての対応の仕方が想像と異なる場合があります。
また飼育員になり慣れてくると「作業」になってしまいます。
自分の好きな動物たちが目の前にいることは自分が頑張った証なので、ちょっとしんどい時も「動物が好き」という気持ちは少なからず自分の原動力にはなってくれるはずです。
ーー杉山さん、ありがとうございました。
杉山さん自身がAWS動物学院の卒業生だからこそ、実習生の気持ちを理解し、飼育員として活躍できるよう指導する杉山さんの優しさが伝わってくるインタビューでした。
今後サファリワールドがどのように発展していくのかにも目が離せませんね。
WRITER PROFILE
Matsuda Natsuki まつだ なつき
ドルフィントレーナー専門学校を卒業後、ダイビングインストラクターや船舶の仕事に関わる。全国の水族館や動物園だけでなく、野生の生き物に会いに行くのも趣味。「地球に生まれた全ての生き物が、HAPPYで愛あふれる未来に生きたい」と願い文字を綴る。