現役飼育員に取材協力をいただき、現場で働く人の内側に秘めた想いを赤裸々にお届けする本企画。
今回も和歌山県にあるテーマパーク、アドベンチャーワールドのマリン課でペンギンの飼育を担当されている大森さんにインタビューさせていただきました。
配属されて9ヶ月目の新人飼育員さんの心境とは。
大森美穂さん
動物が苦手だった幼少期、心境の変化がきっかけに
ーー飼育員を目指したきっかけを教えてください。
私は小さい頃から動物が好きだったわけではなく、どちらかといえば生き物が怖くて逃げているような子どもでした。
一方で両親はとても動物好きだったので頻繁に水族館や動物園に連れられているうちに、少しずつ動物に慣れてきて、いつの間にか動物が大好きになっていました。
「初めは動物が怖かったり苦手だったりする人も好きになれる、動物にはそんな魅力があるんだ」といった心境の変化が私にとっては印象的で、そのできごとから自分の好きなことや楽しいことを共有したい気持ちが高まりました。
小学生の頃は化石に興味があったので考古学者になりたいとも思っていましたが、中学生になると学力的に難しいかもしれないと現実を考えるようになって、そこで自分が興味のあることと関連づけて将来を考えた時にふと出てきたのが「動物の飼育員」でした。
動物の未来を守れる飼育員になりたい
ーー「動物の飼育員」になりたいと決断された後はどのように進路を選択されましたか?
高校卒業後も「飼育員になりたい」という夢は変わっていなかったので、動物の専門学校も含めオープンスクールに参加していました。
ただ両親や友人から「視野を広げた上で進学は考えた方が良い」とアドバイスを受けていたため、動物について幅広く学べる大学に進学することを決めました。
動物に関わりたいといった根本的な夢は捨てきれなかったので、水産系の大学に入学し、在学中はアカエイの生殖器の研究をしていました。
その研究で卵巣などを見ていく中で「どうやってエイは繁殖しているのか」、「ほかの魚種・動物はどうなのか」などを調べていくうちに、動物の繁殖の手助けやそこにおける環境を整備できるような飼育員になりたいと、理想の飼育員像が明確になりました。
動物の未来を守るためにも私が直接関わっていけたら良いなと思っています。
ーー繁殖に携われるような飼育員になりたいと夢を抱きながら、株式会社アワーズに就職を決めた理由を教えてください。
飼育員になりたかったので、動物関係の業種を希望していましたが、そもそも求人数が少なかったり契約社員としての応募だったりと、想像以上に狭き門でした。
そのうえで総合職とはいえ、正社員として動物飼育に携われる株式会社アワーズが魅力的に感じたのと、選考の中で関わる飼育員の方々がとても輝いていたので「ここだったら頑張れるかも」と思い内定をいただけたので就職を決めました。
ーー入社してから初めての配属先が「業務課」とのことですが、どのようなお仕事をしていましたか?
業務課では映像関係の業務に携わることが多くて、パーク内で流れている動画の作成編集、アニマルカーニバル ( ※1 ) でのダンスやMCを任されていました。
何も知らない状態でしたので、先輩方に手取り足取り教えていただきながらお仕事をしていました。
( ※1 ) パークの動物たちやキャラクターと一緒にパーク内をパレードするアトラクション
ーー入社4年目でマリン課に配属が決まったとのことですが、その時はどんな気持ちでしたか?
業務課のお仕事も楽しかったので好きだったんですけど、これまでずっと動物の飼育員を目指してきましたし周りにも常に公言していたので、マリン課に配属になった時は念願が叶い嬉しい気持ちでした。
晴れてペンギン飼育担当になった大森さんの1日
ーー1日のお仕事の流れを教えてください。
9:15までに出勤しマリン課の朝礼、ペンギンチームの朝礼に参加します。
その後、調餌(主に魚の選別)を10:30までに終わるように作業し、各展示場に運んで、お昼まで給餌と掃除を行います。
お昼休憩の後、13時から午後の調餌を14時までに行い、給餌と掃除を16時半までに終わらせることを目標に作業をしています。
給餌や掃除をしながら各個体の健康チェックをします。
繁殖シーズン(一月ごろ)はあわせて検卵も行います。
ーー検卵とはなんでしょうか?
生まれた卵の検査のことです。
卵に光を当てて卵に命が宿っているかどうか、中でちゃんと赤ちゃんが育っているかどうか、卵にヒビが入っていないかなどを確認しています。
ペンギンチームは種ごとに繁殖担当を設けていますが、担当者が全てを担うわけではなく『チーム全体で繁殖について考えましょう』というスタンスですので、先輩方に教えていただきながら覚えているところです。
ーーペンギンチームに配属された時にどんなことから勉強しましたか?
ペンギンの知識がなく先輩方の会話内容ですら何を言っているのか分からなかったので、まずは少しでも話している内容が理解できるようにしようとペンギンの本を読むために図書館に通っていました。
図書館では「ペンギンペディア」という少し難しい図鑑のような感じで、ペンギンの基本的な生態が載っている分厚い本を一番読んでいました。
ペンギンの治療については、投薬を間違えるとペンギンの命や体調にも関わってきますので、まずは状況を理解して、都度、先輩方に質問して後学しています。
やりがいは日々の業務
ーーペンギンの飼育員としてのやりがいを教えてください。
アドベンチャーワールドではペンギンの繁殖が盛んに行われているように感じていて、まだまだ未熟ですが、ほんの少しでもその一員になれていることに、とてもやりがいを感じています。
もちろん繁殖だけではなく日々の飼育業務においても、今まで自分のやりたかったことができているのですごく嬉しいです。
ーー念願の動物飼育だからこそ、日々の業務がやりがいに感じるのかもしれませんね。では、その業務の中で大変なことはありますか?
力仕事が多いことや常に緊張感を持って飼育に携わっているので体力面でも精神面でも大変だと感じることはありますが、先輩方にたくさんフォローしていただいていますし、今はひたすら頑張ろうとモチベーションが高いです!
今は夢への準備期間
ーー今後挑戦してみたい事はありますか?
ゆくゆくはなにかひとつ繁殖担当を持って中心的に活動してみたいという想いがあります。
先輩方は経験を重ねてからその担当を任されているようですので、私もいつかと夢を見ながら今はその準備期間と思って知識と経験を積み上げていきたいです。
個人的にはアザラシやアシカが好きなのですが、今はペンギンについてたくさん吸収したいと思っているので、仮に異動の話の話が出たとしてもペンギンの飼育員でいたいです。
ーーペンギンの繁殖においてどのような部分が難しいと感じていますか?
私も勉強中で知識が追いついていないのですが先輩方の話を聞いていますと、ペンギンは血統が重要視されているような印象を受けています。
ほかの園館の血統も管理しているのですが、ただ数を増やしているのではなく、兄弟同士の交配を避けたり、子どもがいない個体の子孫繁栄を優先したりと家族構成を考えるため、各ペンギンの過去や未来を考えなければいけない部分が私にとって難しいです。
またペンギン自身も自分の血は分からないので、あまりふさわしくないと思われる交配は避けなければいけないため、想像以上に複雑です。
ましてや、無事に卵が生まれたとしても、赤ちゃんが誕生し健康に育ってくれる保証もないので、繁殖前も繁殖後も大変な種だと感じています。
ーー読者の方にメッセージをお願いします。
アドベンチャーワールドにはたくさんの動物がいますので、生き物を観察することで何かを感じていただけるようなパークでありたいです。
またこの記事を読んでくださっている飼育員を目指す方の手助けに少しでもなったらいいなとも思っています。
仕事ですので時には辛いと感じることもありますが、そんな時は応援してくれる人にパワーをもらって、前向きにがんばってほしいです。
ーー大森さん、ありがとうございました。
とても明るい人柄で『ペンギンチームで働けていることが嬉しい!』という気持ちがとても伝わってくるインタビューでした。
大森さんの益々の飛躍を心から願うとともに、アドベンチャーワールドのペンギンの繁殖にも注目していきたいですね。
WRITER PROFILE
Matsuda Natsuki まつだ なつき
ドルフィントレーナー専門学校を卒業後、ダイビングインストラクターや船舶の仕事に関わる。全国の水族館や動物園だけでなく、野生の生き物に会いに行くのも趣味。「地球に生まれた全ての生き物が、HAPPYで愛あふれる未来に生きたい」と願い文字を綴る。