2023年03月10日

【番外編】動物園・水族館の運営はどのように行っているの? - アドベンチャーワールド 業務課・中野さん

和歌山県にあるテーマパーク、アドベンチャーワールドの現役飼育員に取材協力をいただき、現場で働く人の内側に秘めた想いを赤裸々にお届けする本企画。

今回は番外編としてアドベンチャーワールドの音響や映像関係の管理運営などでパーク運営を支えている中野さんにインタビューさせていただきました。

日頃、公にされないからこそ、中野さんの業務内容を深掘りしていきましょう。

中野翔太なかのしょうたさん

Profile

和歌山県白浜町出身。高校卒業後、株式会社アワーズ(※)に就職。入社当初はわんわんガーデンにて犬の飼育やパフォーマンスに携わる。その後、業務課に移動しショーエンターテイメント経験を重ね、サブリーダーに就任。現在は業務課という園内の音響や映像関係の管理運営などを担当し今年で12年目を迎える。(2023年1月現在。)

就職したきっかけは地元・白浜が大好きだから

ーーアドベンチャーワールドに入社したきっかけを教えてください。

高校生だった僕は、恥ずかしながら何もしたいことがなく、ただ地元が大好きという理由から地元 ( 和歌山県白浜町 ) で就職先を考えていました。

学校に届いたたくさんの求人票の中から株式会社アワーズを見つけた時に、幼い頃から訪れていた楽しい思い出が蘇り、今度は楽しさを提供する側になってみようと興味を持ちました。

なので、飼育員になりたいといった気持ちからではなく、地元が好きということと楽しい思い出が詰まった場所というのがマッチして、株式会社アワーズに就職を決めたんだと思います。

幸せな刺激を積み重ねることで充実した毎日を送ってほしい

ーー入社されて初めての配属先はどこでしたか?

遊園地内にあるわんわんガーデンという場所で犬の飼育やパフォーマンスに携わる業務を任されました。

実家で犬を飼っていたので抵抗はなかったのですが、動物飼育という目線では初めてのことなので一からの勉強でした。

ーー犬の勉強というのはどんなことからはじめましたか?

先輩に教えてもらうというのはもちろんですが、業務終わりには本屋さんに行って、目にとまる犬の本はすべて読みました。

本を読む時は、その本に書かれていることをすべて読むのではなく、日々の業務をイメージしながら、すぐに実践できそうなことを取り入れるようにしていました。

というのも、犬の種類や性格は多種多様ですので、固定概念は持たないように意識し、自分の中で腑に落ちる情報だけ抜粋し取り入れることで、その個体にあったトレーニングをしたいという思いが強かったためです。

そのほかにもアドベンチャーワールドはさまざまな種類の動物がいるので、先輩トレーナーに積極的に質問をしていたのを覚えています。

ーー動物の種類が異なると思うのですが犬のトレーニングにも有効なのでしょうか?

「考え方」の部分でとても参考になりますね。

動物に自分のしてほしいことを伝えたり覚えてもらったりするために行うトレーニングですが、それが「動物にとって幸せな刺激 ( トレーニング ) 」であることは、どの動物に対しても共通していますし大切だと思っています。

変わり映えのない毎日では退屈してしまうのは人間だけではないため、動物に対し日々違う刺激をどうやって与えてあげられるかを意識していました。

トレーニングが動物にとって楽しいものであるように、そしてその延長線上には動物にとって充実した毎日になるようにと、試行錯誤を重ねながら一緒にできることを増やしていくようにしていました。

ーー犬のトレーニングで意識して気をつけていたことはありますか?

動物の特徴として犬は群れで生活するため、順位付けがはっきりしています。

なので、彼らの中の順位を乱さないようにしながら、徐々に飼育している犬たちのリーダーに僕たちトレーナーがなることで、できる限りの意思疎通や喧嘩を防ぐことなどに役立てていました。

ほかにも、犬に関わる人は僕だけではないので、その日どのような接し方をしたのかトレーニングノートに記録しチームで共有していました。

ーー犬の飼育に携わっていた時のやりがいを教えていただきたいです。

犬は人間の身近な動物なので、犬を飼っている方、ブリーダーの方など犬のプロフェッショナルが多いため、彼らの体調や状況、環境など不調な部分は、すぐに来園者に気がつかれてしまいます。

そのなかで僕もプロの一員として、来園者に指摘をいただくことなく、ベストな犬との付き合い方を学んでいただけた時には、とてもやりがいを感じていました。

ーー身近な生き物だからこそ、他の動物と違った難しさがありますよね。

そうですね。

とくに犬のプロフェッショナルの方にはどうしたら学びながら楽しんでいただけるかを素人ながらに考えながらパフォーマンスしていました。

ーー中野さんが思うわんわんガーデンの魅力を教えていただきたいです。

アドベンチャーワールドでは15頭以上の犬が集団で生活していています。

身近な生き物とはいえ、犬を群れで飼育している方は少ないと思うので、ペットではなく群れで生活している犬本来の姿に注目していただきたいです。

たとえば、寝心地悪そうなところで寝ているのはなんでだろうという疑問の背景には、すでにリーダーがお気に入りの場所で寝ているだったりとか、犬同士が寄り添っているのは協力して何かを成し遂げようとしているのではないかだったり、人間的な考え方にはなってしまうのですが、犬の行動の一つ一つに意味があるかもしれないので、予想しながら観察していただけるとより面白いかもしれません。

業務課・中野さんの一日

ーー現在、業務課にて勤務されているということで1日のお仕事の流れを教えてください。

日々、違った仕事をしているので一日を表現するのは難しいですが、基本的にメールチェックから始めます。

音響や映像、照明の機材関係、園内で販売するグッズなど外部の方々と協力してお仕事をすることが多いので、連絡の確認は欠かせません。なかには頻度の少ない業務内容もありますが、どの仕事も連携をとることが大切になってきます。

他の施設との差別化を図るためにも新しいことを取り入れていきたいので、外部からの情報収集には積極的に力を入れています。

また現在は、イルカのライブの音響を担当していますので、そのライブが始まる前後は飼育員と打ち合わせをしています。

個体の状況によってライブの内容を変更することもありますし、現在のライブをより良くするための良いアイデアなどの意見交換の時間を設けています。

そのほかにも、リーダーとして誰かの前で喋っていたりすることもあれば、ヘルメットをかぶって何かを修理している日もありますし、音楽編集など一日中パソコンと向き合っている日もあります。

園内で流れているBGMも僕が担当させていただいているため、何かトラブルがあった際に対応できるよう、ある程度の機材修理はできるように勉強しました。

ーーライブの構成から音楽編集、機材修理など、日々違うお仕事をされているのですね!外部からの情報収集はどのようにされているのでしょうか?

動物たちに負担をかけず、アドベンチャーワールドの規模感でいかにライブを発展させていけるのか、動物たちの魅力を伝えられるのかを考えながら情報を取り入れています。

僕たちが想像しているコンセプトと合致するものがあるか探すために直接業界の方々に聞くこともありますが、機材に関する最新技術の展示会の情報や業界向けのプレゼンなどに参加してアドベンチャーワールドで活用できそうなものは取り入れられるように日頃から意識しています。

以前は、ドローンを飛ばしてライブ中のイルカの後ろにその個体のシルエットを写す演出に挑戦しました。

ーー最新技術とアドベンチャーワールドの融合ですね!ライブの演出で音響も担当されているとのことですが、具体的にどのようなことをされているのでしょうか?

アドベンチャーワールドで流れている音楽は基本的に自社でオリジナルの楽曲を制作をしています。

そのため、作曲家の先生に作りたい音楽のイメージを伝え打ち合わせを重ねながら音楽を作成したり、フリー音源を探して編集したりしていますので、園内で流れているBGMやライブで使う音源は一から作成していることが多いです。

ーーライブの構成はどのようなことを意識していますか?

「イルカの魅力」を来園者にどのように伝えられるかを意識しています。

「イルカの魅力」と言っても、イルカのどの部分を見て、来園者にそれを感じとってもらえるかは一人ひとり違うはずです。

なので、できる限り多くの人の心に届くように、飼育員とディスカッションを重ねながら、メッセージ性のある「シーン」をいくつも作り上げていくことを心がけています。

僕はそのシーンに合うような音楽を作成したり、照明などで演出を加えたりすることで、イルカの魅力を最大限、際立たせられるように尽力しています。

ライブを行う上での目的として来園者の「共感」を大切にしているので、ライブを見て「海をきれいにしたいな」、「周りの人を大切にしよう」など、自分で感じたインスピレーションを私生活に還元してくださったら嬉しいと思っています。

ーーアドベンチャーワールドの音響や映像関係の管理運営などでパーク運営を支えている立場として、やりがいを感じる瞬間はありますか?

僕の仕事は表立った仕事ではないのですが、やりがいを感じる瞬間はあります。

大きく分けると二つあって、一つ目はまずアドベンチャーワールドに来ていただけることが嬉しいです。

そして僕は音響や照明などイルカのライブに携わることが多いので、ライブ終了後はお客様のお見送りに行くのですが、そこで「楽しかった」と言ってもらえると、頑張ってよかったと感じますね。

二つ目は僕が関わることで動物や飼育員のプラスアルファになれた時ですね。

実際に動物飼育に関わることはないものの、動物の魅力を伝えたいという気持ちはあります。

どのように演出したら、動物や飼育員のストレスがなくお客様に楽しんでいただけるかを考えていますが、それは僕だけではできないので、飼育員とのコミュニケーションを大切にして、今後のビジョンなどを話しながら実現できた時、僕の存在が誰かの支えになった時は達成感もありますし、やりがいを感じます。

ーー中野さんの立場だからこそ感じられるやりがいですね、素敵です。

どんなときも最高のクオリティで届けたい

ーーお仕事でとくに大変なことはありますか?

大変なことであげるとしたらイレギュラーが多く、臨機応変に対応し続けなければいけないことですね。

動物と関わる仕事なので、彼らの健康が第一優先です。

とはいえ、彼らも人間と同じように体調がすぐれなかったり気分が乗らなかったりすることもあります。

その環境で物事がスムーズに進まなかったり、実現できそうなことができなくなったりとイレギュラーが起こるのは想定内ですが、毎回同じようなことが起こるわけではありませんし、その影響でライブのクオリティを下げることはしたくありません。

そんな時はいつも以上に飼育員とのコミュニケーションを増やし、今何をしたら現時点での最高を出せるのかを一緒に考えるので、音楽や照明の調整を夜まで行うこともあります。

どんな時も楽しみにしてくださっている来園者の方には最高のパフォーマンスを届けたいと思っていますので、大変なこともありますが、それがさっきお話しさせていただいた僕のやりがいでもあります。

ーー今後やってみたいことはありますか?

もっと多くの方に「共感」していただけるライブを作っていきたいというのと、自分自身が成長していきたいと思っています。

僕は音楽や照明などの機械を触ることが多いですが、専門的な知識を持っているわけではないので、勉強して資格を取得し、アドベンチャーワールドのライブに還元していきたいです。

それが実現できるようになったら、イレギュラーの対応ももっと早く解決できますし、より多くのお客様に楽しんでいただけるようになると思います。

なかには動物のライブやショーに対して否定的な意見を持っている方もいらっしゃるので、僕とは違う意見の方々の心にも何か届くような別の形のエンターテイメントに挑戦して行きたいですね。

ーー入社した時と現在では仕事への思いが変化していると思うのですが、中野さん自身でターニングポイントはあったのでしょうか?

自分自身で何か変えようと思ったわけではなく、配属されて一年くらいで先輩方が異動されてしまいましたので、自然と自分で勉強せざるを得ないという環境になってしまいました。(笑)

当時はまだ右も左も分からない状態で現場に放り込まれた感覚だったので、仕事に対し我武者羅に努力していた時期はありますね。

初めからできないと諦めず、努力していれば実現できることもありましたし、周りの人が助けてくれることも増えました。

大変でしたが、その経験が功を成し自分の自信にもなりました。

見て感じたこと、すべてが大正解

ーー中野さんが思うアドベンチャーワールドの見所を教えてください。

ライブにMCがないことですね。

先ほどから、「動物の魅力を伝えたい」と言っていますが、その魅力を自分たちが解説することで伝えたいわけではなく、「かわいい」だったり「こんなに高くジャンプできるんだ」だったりライブを見て感じていただいたことがすべて正解だと思っています。

欲を言えば、アドベンチャーワールドでのライブは「Smiles」や「LOVES」とテーマがあるので、このシーンは笑顔を意味しているのかなとか、動物たちのアクションや演出の背景をテーマごとに想像を膨らませると更に楽しんでいただけるかもしれません。

ーー中野さん、ありがとうございました。

まさにアドベンチャーワールドの影の立役者である中野さん。

入社当初から現在にいたるまで、常に誰かのために尽力されてきた背景があるからこそ、今の活躍に繋がっているのかもしれません。

本記事を完読いただいた方にはぜひ、細部までこだわられたアドベンチャーワールドで通な楽しみ方をしていただきたいです。

WRITER PROFILE

Matsuda Natsuki まつだ なつき

ドルフィントレーナー専門学校を卒業後、ダイビングインストラクターや船舶の仕事に関わる。全国の水族館や動物園だけでなく、野生の生き物に会いに行くのも趣味。「地球に生まれた全ての生き物が、HAPPYで愛あふれる未来に生きたい」と願い文字を綴る。